「パートナーとの子供を授かれず体外受精を…」と考えても、リスクや安全性の問題が不安という方は多いようです。「双子や三つ子ができやすい」「子供に障害が現れないか不安」と考えると、体外受精を受けるにも二の足を踏んでしまうことでしょう。しかし、必ずしも「体外受精はリスクが高い」と言い切れるわけではありません。
今回の記事では、体外受精の安全性とリスクについて起こる原因などや公的調査の結果を交えながら解説していきます。読んでいただければ、体外受精はリスクが高いのか、安全性が高い治療なのか判断するための材料として役立つはずです。
目次
体外受精のリスク
比較的安全性が高いとされる体外受精にも、リスクはあると言われています。しかし他の不妊治療でも起こり得るリスクがほとんどで、体外受精そのもののリスクは女性の身体的な負担と言えるでしょう。それでは、体外受精での6つのリスクについて解説していきます。
リスク1:卵巣過剰刺激症候群
体外受精を受けると、まれに「卵巣過剰刺激症候群」を引き起こすことがあります。不妊治療に用いる排卵誘発剤である「hCG製剤」の投与と、エストロゲンの分泌により起こる症状です[1]。そのため体外受精が直接的な原因となるわけではありません。
hCG製剤の副作用であり、排卵誘発剤を用いれば安全性が高いとされる体外受精以外の治療でも起こり得る症状です。もしお腹が張ったり吐き気がしたり、急激な体重の増加があったり[1]する場合は、卵巣過剰刺激症候群を疑ってください。
リスク2:排卵時の痛み
体外受精では採卵時に痛みを感じるリスクがあります。採卵をする際には、膣から卵巣に向けて長い針を通して卵子を採取するためです。
クリニックによっては採卵時に静脈麻酔や局所麻酔を用いますが、麻酔をせずに採卵するクリニックもあります。体外受精の安全性とともに痛みの軽減を期待されるなら、麻酔可能なクリニックを選ばれるのがおすすめです。リスクとされる採卵時の痛みを抑えられるでしょう。
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リスク3:先天異常
体外受精では、子供に先天異常の確率が高くなるとされていることもリスクとしてあげられます。統計的に体外受精にて産まれた子供には、先天的な異常が見られる確率が高いと報告されているのです。ただし先天異常の原因が体外受精であるとはっきりしているわけではありません[2]。
体外受精は安全で、その他のことが原因とも言われています。しかし確率としてわずかに上がる可能性があることは知っておいてください。
リスク4:多胎妊娠
多胎妊娠をしやすいことも体外受精の安全性とリスクの問題とされています。体外受精では妊娠率を高めるために、複数の受精卵を子宮に送り込むためです。多胎妊娠におけるリスクは、子供の人数が増えるほど流産しやすくなることと、低体重の子供が産まれやすいこと。四つ子以上では脳性麻痺や精神発育障害など、後遺障害が起こる確率も高くなると報告されています。
多胎妊娠をしたケースでの不妊治療と自然妊娠の割合は次のとおりです。
|
体外受精 |
排卵誘発法 |
自然妊娠 |
三つ子 |
46.7% |
43.2% |
8.5% |
四つ子 |
52.9% |
41.2% |
3.9% |
五つ子 |
33.3% |
66.7% |
0.0% |
出典:厚生労働省:多胎・減数手術について
体外受精では多胎妊娠をしやすいことがおわかりいただけるはずです。しかし、排卵誘発法も多胎妊娠しやすく、五つ子の場合は体外受精よりも排卵誘発法による妊娠の方が割合が多くなっています。そのため不妊治療のうち、体外受精のみが多胎妊娠しやすいとも言えません。
リスク5:子宮外妊娠や前置胎盤
子宮外妊娠や前置胎盤の発生率が高いことは、体外受精における大きなリスクです。自然妊娠に比べて体外受精では、子宮外妊娠・前置胎盤の発生率は約5倍とされています。いずれも母親の命にかかわる危険性の高い症状。そのため多くのケースで手術を行いますが、最近では子宮外妊娠や前置胎盤の確率を低くするための研究も行われています。
研究の結果、マイクロ磁石を搭載したマイクロチャンバと、腰部に固定する磁石で、子宮壁に受精卵を引き寄せて保護する方法が開発されました[3]。
現在ではまだ一般的に普及していませんが、今後、体外受精の安全性をさらに高めるための技術として一般化していくことでしょう。体外受精で起こりやすい子宮外妊娠や前置胎盤のリスクは、今後軽減されていく可能性があります。
リスク6:がん
最後にご紹介するリスクは卵巣がんです。排卵誘発剤を用いると卵巣がんの発生率が高くなるとの報告があるためです。ただし卵巣がんのリスクは、薬剤を用いない通常の排卵でも高まります。卵巣がんのリスクを高めるのは「排卵」そのものです[4]。そのため排卵を誘発させれば卵巣がんのリスクが高くなる可能性はあるでしょう。
アメリカやイスラエルの研究では、実際に排卵誘発剤でがんのリスクが高まったと報告されています。しかしイタリアやデンマークでは体外受精を含む不妊治療によるがん発生リスクはほとんどなく安全性が高いと報告[4]。そのため必ずしも排卵誘発剤で卵巣がんのリスクが高まるとは言い切れず、可能性のひとつと考えてください。
体外受精の成功率
体外受精の成功率は、日本産婦人科学会からは2006年で19%、厚生労働省からは2017年で23.11%と報告されています。
そして妊娠からの出産成功率は、IVF(In Vitro Fertilization)で72.00%です。「IVF」とは受精させた卵子から培養でできた胚を、子宮内に戻す体外受精法のことを指します。
20%前後との数字を見ると、成功率が低いと感じられるかもしれません。しかし、妊娠にいたった場合の出産率は72%と高くなっています。また、統計には妊娠率が下がり始めた年代の方も含まれているので、もし年齢が若い方であれば成功率はさらに高まると考えられるでしょう。
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30代女性の体外受精の成功率と妊娠率
出典:日本産婦人科学会:生殖補助医療(assisted reproductive technology: ART)の実際
出典:厚生労働省:(PDF)不妊治療の実態に関する調査研究について
出典:厚生労働省:(PDF)不妊治療の実態に関する調査研究 最終報告書
体外受精のはっきりとしたリスクは「身体的負担」
いかがでしたでしょうか?この記事を読んでいただくことで、体外受精のリスクや安全性がご理解いただけたと思います。ただ「体外受精にリスクがあります」と言い切れるものではなく、はっきりとしたリスクは身体的な負担です。
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[1]参照:厚生労働省:(PDF)重篤副作用疾患別対応マニュアル
[2]参照:JSTAGE:(PDF)ARTによる先天異常のリスク
[3]参照:日本医療研究開発機構:(PDF)日本医療研究開発機構 医療分野研究成果展開事業 産学連携医療イノベーション創出プグラム セットアップスキーム(ACT-MS) 事後評価報告書
[4]参照:JSTAGE:(PDF)卵巣癌発生の自然史と早期診断