精子提供サービスは、さまざまな事情からお子さまを授かりにくい方にとって、愛しいわが子にめぐり逢うための選択肢のひとつです。
しかし、精子提供という行為そのものを問題視する意見も多く、また精子提供を受けて生まれた子どもとの接し方は非常に繊細な問題です。
今回は、『こうのとりあしながプロジェクト』の運営責任者が、精子提供によって生まれたお子さまと幸せな日々を送るために大切なことを、みなさまにお伝えいたします。
目次
インタビュアーの紹介

I LOVE BABY 代表
精子提供(AID)で生まれた子どもとの接し方
「精子提供は倫理に反する」という意見に対してはどのようにお考えでしょうか。
もちろん、命にかかわる行為ですので、「倫理に反する」といったご意見が出て、真剣な議論のきっかけとなるのは有意義だと思っております。
しかし同時に私が思うのは、
「DNAがつながっていればそれでいいのか? DNAがつながっている親子でも、子どもが生まれてから倫理に反するような事態になってしまうケースは、残念ながらあるじゃないか」
ということです。
ニュースを見ていても、親子間での胸が痛くなるような事件はよく報道されています。
たとえば、生まれたばかりの赤ちゃんがトイレに遺棄されていたとか、小さな子が虐待で亡くなってしまったとか。
そういった事件を起こしているのは、「倫理に反する」とされた精子提供で子どもを授かった方ではなく、ほとんどが「倫理的だ」とされるDNAのつながった親ですよね。
そう考えると、「親子のDNAがつながっているかどうか」はそこまで重要視されるものなのかな? と、個人的には疑問に思います。
私たちの実施している精子提供サービスは、みなさまが家族を作るため、愛を育むためのお手伝いをするものです。
ドナーはあくまでもそのきっかけを提供する役割にすぎず、親としての役割を果たすのは、お子さまを育てられる方々だと考えています。
「親」というのは子どもにとって、自分を愛してくれる人、育ててくれる人、そして自分を必要としてくれる人です。
大事なのは、お子さまを愛して、大事に育てることですので、それを理解して親の役割を果たせば、「精子提供で生まれたから本当の親子じゃない」なんて話にはならないはずです。
わが子には、精子提供で生まれた事実を伝えるべきなのでしょうか?
精子提供の倫理面が議論される一因は、「子ども本人がどう思うのか」という点ですよね。
わが子に「精子提供を受けて生まれた」、つまり父親が違うんだよという事実を伝えるべきか否かは、非常に繊細な問題です。
親子間の関係性はさまざまなので、一概には言えませんが、揺るがしてはいけないと私が思っているのは、「子どもが疑問を持ったらきちんと答えてあげる」姿勢です。
嘘をついたり、否定的な言い方をしてしまったりするのだけは避けてください。
たとえ今は疑問に思っていなくとも、いずれ本人が「もしかして」と気づく可能性も大いにあります。
ですので、たとえば「中学校を卒業したら」「成人したら」といったように、あらかじめ打ち明けるタイミングを決めておくとよいかな、と思います。
精子提供者のプライバシーもあるため、実の父親に会うのが難しいケースもあるかと思います。
確かにそうですよね。なかなか難しい問題です……。
『こうのとりあしながプロジェクト』では、ドナーのプライバシーを守るために、身長や体重、年齢、血液型、病歴など、個人を特定できない範囲の情報しかお伝えできないので。
DNAのつながりが必ずしも親子の絆とイコールではないとはいえ、お子さまから「どうして私にはお父さんがいないの?」「お父さんは誰なの?」という疑問が出てくるのは当然のことです。
出自を知る権利自体は平等にありますが、サービスやドナーの方針によっては精子提供者の情報を明らかにできない場合もあります。
それがきっかけによる親子間の衝突ももしかしたらあるかもしれませんが、やはりお子さまの気持ちをきちんと受け止めて、誠実な気持ちで接していただければ、と思います。
自身の出自を知ったことで悩む子どもにどのようなケアをしていくべきなのでしょうか?
お子さまの気持ちを尊重することが大前提ですね。
ご自身の生まれた経緯を知って混乱したり、否定的な感情を抱いたりするかもしれません。
そういったときも、気持ちを理解して受け入れてあげるところからだと思います。
そして、お子さまには「愛のため、家族のために精子提供を受けたんだよ」と、自信をもって伝えてあげてほしいと思っています。
親御さんが精子提供サービスを利用したのは、家族を作るため、お子さまに出会うためですよね。
なので親御さんご自身は、精子提供を受けたことを否定的に思う必要はないんです。
むしろ、否定的に思って、卑下してはいけない。
どうしてもお子さまとの関係性で難しい問題が生じてしまったのであれば、プロのカウンセラーに相談するという選択肢もあります。
将来、もし、精子提供で生まれる子どもが増えていったら、当事者のコミュニティなども作られるかもしれませんよね。
親子間の問題ではあるものの、必要に応じて第三者の力を借りてケアしていくことも時には大切だと思います。
精子提供で生まれた子どもが生きやすい社会のためには、何が大切だと思いますか?
まず、精子提供という考え方が世の中に浸透して、受け入れられることが重要です。
では、そのためには何が必要なのか? といえば、「精子提供に接している政治家がいること」がひとつ挙げられます。
精子提供を受けた経験のある方や、我々のようなサービスに携わっている方が政治家になれば、精子提供についての世間の知名度が向上します。
また、精子提供や妊娠・子育てに関する議題が挙がったときに当事者目線で話をしてくださるので、議会、ひいては地域や国で精子提供に対する理解が深まる期待も持てますよね。
精子提供サービスを実施している団体に対して予算を確保していただければ、さらなるサービス品質の向上や広報活動の拡大にもつながります。
なので、精子提供に接した経験のある方が政治家になるのがとても重要なんです。
さらに言うと、そのためには、女性が活躍できる社会になっていく必要もあります。
精子提供を受けるのは女性ですから、当事者となると必然的に女性になりますが、日本の国会議員のうち女性議員の割合は10%程度と、非常に少ないんですよね。
精子提供を受けた当事者が政治家になって、世の中の理解を深めてもらうには、女性が今よりももっと活躍できる世の中になっていかなければなりません。
女性の意見が受け入れられやすい社会になれば、政治家でなくとも、精子提供を受けている方がご自身の考えや経験を今よりももっと広く伝えられるようになりますしね。
精子提供、不妊治療をご検討の方へのメッセージ
精子提供サービスの利用を検討しているものの、不安な気持ちを抱えられている方へメッセージをお願い致します。
「精子提供という手段をとっても大丈夫なのかな」と、「間違いたくない」という気持ちがあるからこそご不安なのだと思います。
しかし、お子さまを授かる手段に限らず、世の中に「正解」はありません。
ご自身で悩みぬいた末に選んだものが正解になっていくので、自信をもって選んでいただければよいと私は思っています。
迷っている最中はとても不安で孤独な気持ちかもしれませんが、「迷い」それ自体は、進みだそうとしている気持ちの表れなので、素敵なことなんです。
少しでも迷っている気持ちがあれば、ぜひ私たちにご相談ください。
私たちは決して、面談の場ですぐに決断を求めません。
むしろ「この場では答えを出さないで、お家に帰ってからゆっくりお考えください」とお伝えしています。
面談で解決できる疑問もありますし、ご自身の言葉でお話しいただいて初めて気づく気持ちなどもあると思います。
ご家族やご自身の将来について、よくよく悩んだうえでご自身なりに「正解だ」と思える選択をなさってください。